2017/04/24

ダヨ・オロパデ/松本裕訳「アフリカ 希望の大陸」感想。
アフリカ経済。2017年03月24日読了。

アフリカ経済に関する前向きな情報が満載の、とても良い本でした。

著者はナイジェリア系アメリカ人(親が移民)の女性ジャーナリスト。本書の原著は2014年に出版され、日本語版は2016年8月に出版。日本語版出版までに時間がかかっているため、本書に書かれているサービスのうち既に廃止に追い込まれているのもあり。

本書ではナイジェリアの公用語の一つヨルバ語の「カンジュ」という言葉をキーワードに設定し、アフリカ経済の行動様式を「カンジュ」で説明しようと試みています。「カンジュ」とはヨルバ語直訳で「焦る」「急ぐ」という意味。意味合いとしては「精を出す」「努力する」「ノウハウ」「やりくり」といったことになるとのこと。

非常に面白かった。が、あまりにも楽観的過ぎるので私的な評価は9点。


9点/10点満点


以下、つらつらと付箋をつけたところを列挙。

P21
2007年のケニアの大統領選挙で、キバキ派(キクユ族)とオディンガ派(ルオ族)に国内が分断され、暴力が渦巻き1200人の死者を出す事態になった。ケニアはアフリカの中でも(旧宗主国イギリスの流れを汲む)民主主義優等生と思っていた西欧の人は皆驚いた。TVやラジオなどマスコミは傍観していた。それに怒ったたケニアのソフトウェア技術者が、暴力行為を発見したら即座にマッピングできる「ウシャヒディ」というソフトを立ち上げた。そして秩序は回復に向かった。

「ウジャヒディ」は世界中に広がった。パレスチナのガザの混乱を監視し、スーダンや南米の選挙を監視し、
豚インフルエンザの蔓延を追跡し、メキシコ湾原油流出事故で流れ出た石油を監視した。


P39
アフリカでいちばん裕福なナイジェリア人のアリコ・ダンゴート
→調べたら、セメントで財を成した2兆円以上の超金持ちだった。


P41
スーダン生まれの億万長者で国際通信会社セルテルの創業者モハメッド・イブラヒム
→調べたら、この人も1000億円の桁の金持ちだった


P49
ナイジェリアは世界で2番目に映画が多く作られていて(私は知っていた)、オンライン配信はナイジェリアのNetflixといわれる「iROKOtv」という会社が最大手。ナイジェリア出身者で他国に出稼ぎに行っている人は多く、異国でこのサービスを楽しんでいるナイジェリア人も多いのだとか。


P93
1997年、ナイジェリアの繊維産業では137,000人が働いていた。6年後、57,000人にまで激減した。「太った国(=アメリカ)」からの善意の古着の寄付によって、繊維産業が壊滅してしまった。「善意の無償寄付」とは勝負にならない。

太った国の善意により、マラウィ最大の繊維メーカーが閉業した。エチオピアとエリトリアでは古着の輸入を禁止した。

サハラ以南で最大の綿生産国であるマリでは、国内では1枚もTシャツを生産していない。


P104
国連という、アフリカの普通の人にとっての部外者が勝手に立てたミレニアム開発目標で、万人の初等教育を充実させる、というのがある。

アフリカ各国は目標到達に尽力した。目標を達成したら国連からいろんな金がもらえるから。

その結果、「給料がろくに支払われない教師たちが」 「(教師なのに)学校に来なかったり」 「退屈で時代遅れのカリキュラムすら教えることができない」 という事態に陥った。

→その結果として、本書の違うページで、アフリカのスラム街で「1か月5ドル」の私立小中学校に入学させる親が滅茶苦茶増えているとのこと。こういう私立学校が保証するのは「教育の質」。やる気のない教師がいる公立学校(一応無料)よりも、金を払ってでも教育の質が高い学校に通わせる親が多いのだとか。

→P215に続報的に書かれていて、ケニアのスラムの40%、DRCコンゴの71%、ナイジェリアのラゴス州の3/4、ウガンダの中学校5600のうち4000が私立。


P125
アフリカ諸国では、隣人の噂、評判がかなり重要な情報源になる。これを「近傍情報」と呼び研究したところ、「xxさんはこの時期に種を撒いて大豊作だった」的な情報が集まった。

これってビジネスになるんじゃね?


P138
アフリカの優等生と言われているボツワナ。国債の格付けも高い。
しかーし、官僚の主要ポストはカーマ大統領の親族が占めている!!! マジで!!!


P140
頭脳流出について、まあ普通に優秀なアフリカ諸国の人たちはアメリカを目指す。
スーダン人はアトランタ。
ソマリ族はミネアポリス。
エチオピアとエリトリアはワシントンDC。
フランス語圏アフリカ人はニューヨーク。

→へえー。そうなんだ。つまり逆を言えば、そういう国とコネを持ちたいときはアメリカのそういう都市に行けばいいのね。


P145
ソマリア発祥の国際送金サービス「ダハブシール」。現在144か国で国際送金ができるとのこと。

→この手のサービスはウエスタンユニオン銀行(日本の代理店は大黒屋)しか知らなかったが、やっぱりこういう送金サービスってのは需要がすごいんだなあ。


P149
アルセロール・ミッタル(世界最大の鉄鋼会社。インドのミッタルスチールが買収に買収を重ねた結果出来た会社)がリベリアのグランドバッサ郡に拠点がある。

→西アフリカだって鉄鋼需要はあるんだろうけど、リベリアに工場があるというのは意外だった。


P170
Mペサ(知らない人はググってください)の成功を受けて、同様のサービスが世界中で広まった。

パガ、エコキャッシュ、スプラッシュモバイルマネー、ティゴキャッシュ、エアテルマネー、MTNモバイルマネー。

中でもセネガルのワリという会社は22カ国で使えるサービスを開発した。


P184
南アフリカで最大のSNSは「Mxit」。5000万人以上が利用している

→2017年3月に調べたら潰れていた


という話がまだまだたくさん載っているんだけど、書き飽きたのでこれでおしまい。

興味がある人は本書を定価で本屋から買って読んでください。(じゃないと翻訳者に印税が1円も入らない→こういう本を翻訳してくれる人が減る→日本語では情報入手が遅れてしまう→冗談抜きで日本国経済の危機)

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2017/04/12

アクセスカウンター41万突破に感謝。

トップに設置している忍者Toolsアクセスカウンターが40万を突破しました。
お読み下さっている皆様に感謝です。

2005年12月15日 ブログ始める
2006年11月23日 アクセス01万突破 (344日) 一日平均 29
2007年10月09日 アクセス02万突破 (321日) 一日平均 31
2008年06月21日 アクセス03万突破 (255日) 一日平均 39
2009年01月19日 アクセス04万突破 (212日) 一日平均 47
2009年05月28日 アクセス05万突破 (129日) 一日平均 77
2009年09月06日 アクセス06万突破 (101日) 一日平均 99→11月に世界一周開始
2010年01月06日 アクセス07万突破 (122日) 一日平均 82
2010年02月22日 アクセス08万突破 ( 47日) 一日平均212
2010年04月27日 アクセス09万突破 ( 65日) 一日平均154→5月末に世界一周終了
2010年07月01日 アクセス10万突破 ( 65日) 一日平均154
2010年09月02日 アクセス11万突破 ( 62日) 一日平均161
2010年11月21日 アクセス12万突破 ( 80日) 一日平均125
2011年02月01日 アクセス13万突破 ( 72日) 一日平均139
2011年04月26日 アクセス14万突破 ( 86日) 一日平均116
2011年07月08日 アクセス15万突破 ( 73日) 一日平均137
2011年09月07日 アクセス16万突破 ( 60日) 一日平均167→フィリピン留学記
2011年11月25日 アクセス17万突破 ( 80日) 一日平均125
2012年01月30日 アクセス18万突破 ( 66日) 一日平均152
2012年04月23日 アクセス19万突破 ( 83日) 一日平均120
2012年06月24日 アクセス20万突破 ( 62日) 一日平均161
2012年08月28日 アクセス21万突破 ( 65日) 一日平均154
2012年11月01日 アクセス22万突破 ( 65日) 一日平均154
2013年01月20日 アクセス23万突破 ( 81日) 一日平均123
2013年03月22日 アクセス24万突破 ( 60日) 一日平均167
2013年05月27日 アクセス25万突破 ( 66日) 一日平均152
2013年07月18日 アクセス26万突破 ( 52日) 一日平均192
2013年09月07日 アクセス27万突破 ( 51日) 一日平均196
2013年11月06日 アクセス28万突破 ( 60日) 一日平均167
2014年01月10日 アクセス29万突破 ( 65日) 一日平均154
2014年03月22日 アクセス30万突破 ( 71日) 一日平均141
2014年06月09日 アクセス31万突破 ( 79日) 一日平均127
2014年08月17日 アクセス32万突破 ( 69日) 一日平均145
2014年11月19日 アクセス33万突破 ( 94日) 一日平均106
2015年02月20日 アクセス34万突破 ( 93日) 一日平均106
2015年06月 頃  アクセス35万突破 カウントするのを忘れていました。
2015年09月15日 アクセス36万突破 ( ??日) 一日平均 97
2016年01月05日 アクセス37万突破 (112日) 一日平均 89
2016年04月20日 アクセス38万突破 (106日) 一日平均 94
2016年08月12日 アクセス39万突破 (114日) 一日平均 88
2016年12月14日 アクセス40万突破 (124日) 一日平均 81
2017年04月09日 アクセス41万突破 (116日) 一日平均 8286

ブログを開始してから4133日で41万アクセスを突破、1日平均99.2アクセスです。

今後ともご贔屓にどうぞ。

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2017/04/08

橘玲「バカが多いのには理由がある」感想。
ビジネス書?2017年03月17日読了。

橘玲氏は多数のWeb連載を持っていて、着想がどれも面白く、私はいつも楽しみにしている。

橘玲公式サイト(週間プレイボーイ連載)
ZAI ONLINE の日々刻々

など。

本書はそういうエッセンスが詰まったものなのだが、もともと単行本で出版された本の文庫化なので、Web連載とは異なり時事性が薄いため、面白さが半減してしまっているかもしれない。悪くはないです。

2カ月前に紹介した「ファスト&スロー」は、橘玲氏が褒めていたので読んだことを思い出した。


6点/10点満点

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2017/04/07

山内昌之・他「中東とISの地政学」感想。
中東分析。2017年03月15日読了。

本屋で立ち読みしたら面白そうに思えたので買った。

18人の中東専門家がバラバラに書いた小論文集。

各執筆者が同時期に原稿を書いたのか、同じようなことが重複して書かれているし、政治分析に関係のないエッセイも混ざっているし、まとまりはないし、うーん。

巻末に載っている35ページの対談
 山内昌之(明治大学特任教授・東京大学名誉教授)
 宮家邦彦(キャノングローバル研究所研究主幹)
 中川恵(明治大学客員教授・羽衣国際大学教授)
が最も有意義な読み物であった。

うーん、中途半端すぎて困る本だ。


6点/10点満点

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2017/04/06

米川正子「あやつられる難民」感想。
いわゆる新書。2017年03月08日読了。

著者の本は、米川正子「世界最悪の紛争「コンゴ」」2011年12月12日読了。7点 を読んだことがある。

著者は神戸女学院卒業後、南アフリカのケープタウン大学大学院で国際関係の修士を取得し、その後ボランティアでカンボジア、リベリア、南アフリカ、ソマリア、タンザニア、ルワンダで活動。その後、国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)に11年勤務し、ルワンダ、ケニア、ザイールコンゴ(コンゴ民主共和国:通称DRC)で難民保護活動等に従事。現在は立教大学特任准教授。

本書の内容は大きく2つに分けられる。
(1-2)難民とは何ぞや。難民を保護するUNHCRの仕事は何ぞや。を著者が長年携わってきたアフリカ難民の例から解説。
(1-2)難民が発生する直接原因は内戦や戦争だが、そもそも国家が脆弱で政治の能力が低いから。
(2)ルワンダの現政権はアカン。人権侵害しまくりだ。

私はわりとこういう本を読んでいるが、(1)と(2)は別々の本にした方がテーマがすっきりして良いのではないか? と思った。

新書にしてはわりと分厚く、300ページを超える。しかし上記のように(1)と(2)が混ざっていて、どっちも中途半端な印象を受ける。

(1)の難民についての話と、難民が発生する背景については、著者の活動エリアがコンゴとルワンダとウガンダが中心なので、必然的にこれらの国の話を引き合いに出すことになる。著者の専門分野なので詳しい。しかし個人的に感じたのは、難民問題は一般化できない(=個々の事例により難民の発生原因が異なり、対処方法も異なる)ので、あくまでコンゴやルワンダの難民問題の説明である。

(2)のルワンダ現政権の糾弾に関しては、これ自体で1冊の本を書いた方が良いと強く感じた。

ルワンダのカガメ大統領は、アフリカの小国(面積は狭く資源は何もないが、気候が良くて人口密度はアフリカでいちばん高い)ルワンダを真の独立国家とするため、女性国会議員比率世界一の国会を作ったり、IT立国を目指している。それが故、アフリカでいちばん西洋諸国から注目されている国である。

が、著者によると、カガメ大統領は裏で言論弾圧や敵対勢力の暗殺を行っているという。この点に関し著者は、許されざる悪行、的な論調で非難している。

カガメ大統領(ツチ族・虐殺された方)はもともとRPF(ルワンダ愛国戦線)というゲリラ組織のトップで、フツ族が大虐殺を行っている隙をついてルワンダの首都キガリを制圧、そのまま新生ルワンダの大統領になった人物である。反対勢力は多数いる。


私は希望や願望を極力排除して物事を考える超リアリストで、今まで得た知識(主に本)を総合すると、アフリカ諸国の発展を阻害しているのは民主主義。選挙で票を獲得した人が議員や大統領になれる民主主義の根幹たる制度は、アフリカでは「選挙の勝者が総取り」する構図を生んでいる。これを無くするためには、深い見識を持ち自国の未来を発展させる断固たる決意を持った独裁者が必要。

世界でこういうタイプの独裁者が成功した例はシンガポールのリー・クアンユー。国全体の発展こそが国家存続の大前提である、自身の対抗勢力は国の発展の邪魔だから弾圧。結果として、シンガポールは世界有数の経済大国に発展した。シンガポールは今でも一党独裁(に近い)体制で、新聞やテレビは政府の検閲を受けている。

アフリカ諸国では、ガーナの初代大統領エンクルマや、ケニアの初代大統領ケニヤッタがリー・クアンユーに近いタイプの政治家だったが、どちらも対抗勢力を押さえるのに失敗し失脚。現在ではカガメ大統領がリー・クアンユーに近い政治を行っている。

発展途上国が中進国へと発展するためには、開発独裁というステップを踏むのが最も効率が良いというのが東南アジアの発展で見られた現象。
シンガポールではリー・クアンユーが59-実質2015年まで56年独裁し、
フィリピンではマルコス大統領が65‐86年の20年独裁し、
インドネシアではスハルト大統領が68‐98年の30年独裁し、
マレーシアではマハティール首相が81‐03年の22年間独裁し、
タイではサリット首相がもっと早い時期の58‐63年の5年独裁し、
それぞれ反対者は抹殺も厭わず弾圧する開発優先政策を行い、
上記すべての国が(いろんな犠牲の上に)発展した。

という点で考えると、ルワンダのカガメ大統領の評価を下すには時期尚早な気がする。

著者が言いたいのはそういうこっちゃない、というのを分かった上で、あえて時期尚早と言いたい。

ジンバブエのムガベ大統領(1980年からずっと独裁)も、最初の20年くらいはわりとまともな大統領だったし。


7点/10点満点

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2017/03/18

岩崎育夫「入門 東南アジア近現代史」感想。
歴史。2017年03月04日読了。

著者の本は岩崎育夫「アジアの国家史」2015年03月05日読了。10点満点 を読んだことがある。素晴らしい本だった。

本書はタイトルの通り、東南アジア史に関する入門書。ASEANに加盟している

インドネシア
シンガポール
タイ
フィリピン
マレーシア
ブルネイ
ベトナム
ミャンマー
ラオス
カンボジア

の近現代史を簡潔にまとめた本である。本書も素晴らしい。

16世紀頃にヨーロッパ諸国が進出する手前の時代から始まり、

最初は貿易だったのがヨーロッパ諸国(ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、フランス)による侵略、植民地化へと進み、

ヨーロッパにとってかわって植民地化した大日本帝国時代、

第二次世界大戦を終え脱植民地となる1945-1960年代の各国の独立、

そして現在に至る発展の経緯が書かれている。コンパクトにまとまっていて、かつ概ね時系列に書かれているので、調べ物をする際に非常に役に立ちそうである。

私はインドネシア史やシンガポール史、東南アジア全体の歴史については何冊か本を読んだが、本書には知らないことも多く書かれていたので、とても有益であった。

以下、私がへえー、と思ったところ。

p39
マレーシアは現在も立憲君主制の下、13州のうち9州でスルタン(イスラムの王様)体制を維持している。

p52
1500年代半ば、スペインは中国との貿易を望んだ。その理由は当時、世界の経済大国1位と2位はインドと中国だったから。

p55
1700年代半ば、インドの村でイギリス東インド会社VSフランス・ベンガル豪族連合軍の戦いがあり、イギリスが勝利した。プラッシーの戦いという。

→フランスもインドに進出していたのか。

p81
1800年代終盤~1900年代初頭、フランスの植民地化にあったベトナムで、反フランス運動を起こしていた活動家を日本に留学させた。200人を超えるベトナム人が日本にやって来た。しかし、日仏条約をタテにフランスがこの留学生受け入れに反発、結局日本は留学生をベトナムに追い返した。そのため、反フランス運動の主導者ファン・ボイ・チャウは、日本もヨーロッパと同じ植民地支配者であるとみなすようになった。

p93
日本がアジア各国を植民地化した1942年に、大日本帝国は3つの事件を起こしている。
シンガポールの華僑虐殺
フィリピンでの戦争捕虜強制連行事件
・タイとミャンマーを結ぶ泰緬鉄道を建設するための労働者強制連行

p114
第二次世界大戦終了後、東南アジア各国が独立するのに2つのパターンがあった。
・もう植民地の時代じゃないと独立を容認するアメリカとイギリス(フィリピン、ミャンマー、マレーシア、シンガポール)
・植民地復活を望んだフランス、オランダ、ポルトガル(ベトナム、インドネシア、東ティモール)

p129
マレーシアの首相は、有名なマハティール以外は全員王族出身。

p132
インドネシアはアチェ独立紛争などがあり、ユドヨノ政権時代に各州の自治権を拡大、28州だったのが現在では41州まで増えている。

p139
スカルノ時代のインドネシアは、マレーシアと断交したことがある。

p143
1978年、ベトナムはカンボジアに進行してポル・ポト(親中国)を排除。
それを受け1979年、中国はベトナムに侵攻(中越戦争)(ベトナムの勝ち)
ベトナムは国内にいる華人を弾圧、財産没収の上、山奥に引っ越すか海外に去れと命令。多くが難民となり、そのボートピープルは日本にも大勢やって来た。

p159
シンガポールの首相リー・クアンユーは独裁者で、現在も新聞などのメディアは検閲を受けている。(ちなみに本書では触れられていないが、シンガポールでは政治集会も禁止されている)


などなど。とても面白かった。


9点/10点満点

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2017/03/13

本川達雄「ウニはすごい バッタもすごい」感想。
生物学。2017年02月28日読了。

生物学研究で東工大教授(現在は名誉教授)の著者による、生物学入門。

刺胞動物門(サンゴ)
節足動物門(昆虫)
軟体動物門(貝)
棘皮動物門(ウニ、ヒトデ、ナマコ)
脊索動物門(ホヤ)
脊椎動物門(背骨があるすべての動物)
についてイラスト付きで解説。

私は工業高等専門学校出身なのだが、生物の授業が無かった。なので、生物学についての知識は本当に少ない。

◆刺胞動物門
・花虫綱(イソギンチャク、サンゴ、5300種)
・鉢虫綱(クラゲ、200種)
・ヒドロ虫綱(ヒドラ、カツオノエボシ、3400種)
・箱虫綱(ハブクラゲ、20種)

→カツオノエボシってクラゲじゃないのか。

◆節足動物門
・三葉虫亜門(絶滅)
・甲殻亜門(エビ、カニ、フジツボ、5万種)
・六脚亜門(昆虫、100万種)
・多足亜門(ムカデ、ヤスデ)
・鋏角亜門(カブトガニ、クモ、サソリ)

→カブトガニってクモの仲間なのか。

◆軟体動物門
・無板綱(殻をもたない)
・多板綱(殻が8枚)
・貝殻亜門
 ・単板綱(殻が1枚)
 ・腹足綱(殻が立体的な螺旋。サザエなどの巻貝。貝の3/4を占める)
 ・二枚貝綱(殻が2枚。アサリ、ハマグリ)
 ・掘足綱(殻が象牙のように先細り。ツノガイ)
 ・頭足綱(殻が平面で螺旋→オウムガイ、殻が退化→イカ、タコ)

→イカやタコって貝の仲間なのか。

◆棘皮動物門
・ウミユリ綱(ウミユリ、ウミシダ)
・ヒトデ綱
・クモヒトデ綱(クモヒトデ、テヅルモヅル)
・ウニ綱
・ナマコ綱

→クモヒトデってのはヒトデとは異なるのか。
→ヒトデとウニとナマコが同じ括りになるとは知らなかった。
→棘皮づ物には脳がない(p217)のか。それはすごいな。

◆脊索動物門
・頭索動物亜門(ナメクジウオ、30種)
・尾索動物亜門(ホヤ、3000種)
・脊椎動物亜門


p289
トカゲのような歩き方をする動物は、歩くときと呼吸をするときどちらも胸の筋肉を使うが、筋肉の使い方が異なるので、歩くことと呼吸を同時にできないとのこと。

なるほどなあ。


私の知らないことが多く書かれていたので、総じて面白く読めたのだが、300ページの本にたくさんの生物に関する情報をぎゅぎゅっと詰め込んだせいか、細かすぎる(と私が感じる)部分と、大ざっぱすぎる(と私が感じる)部分が同居していた。


6点/10点満点

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2017/03/04

ダニエル・カーネマン/村井章子訳「ファストアンドスロー(下) あなたの意思はどのように決まるか?」感想。
行動経済学。2017年02月25日読了。

下巻も非常に面白かった。読むのに時間がかかったが、とても有意義な時間を過ごせた。

この本(上下巻)は内容が詰まっている。詰まっているというのは、余計なことがあまり書かれていなく、斜め読みをすることができない状態のことである。一言一句、かみしめるように読み進めないと、次に書かれていることが理解できなくなるのである。

翻訳に関しては、無理に日本語化した部分が悪目立ちしたが、これだけの内容を伝えたという点では良い翻訳と言える。


下巻のポイント(ほぼ私的メモです。分かりづらくてすみません)

p53
アメリカでスタートアップ企業の存続率は35%である。しかし、スタートアップ(起業)する人のほとんどは、自分が成功すると信じ、失敗する側(65%である)になると思っていない。

p67
所属している会社で、ある新規事業を始めるとする。事業を進めたがる人たちは概ね自信過剰に陥っているので、そういう人たちに「いまが1年後だと想像してください。私たちは、先ほど決めた計画を実行し、大失敗しました。なぜ失敗したのか、簡潔に答えてください」と問うと、新規事業への楽観は消える。

これを「死亡前死因分析」という。


これから後は、ギャンブルをベースにした問いが増える。これこそがノーベル経済学賞を獲ったプロスペクト理論。

問1:あなたはどちらを選びますか
・確実に900ドル貰える。
・90%の確率で1000ドル貰える。

問2:あなたはどちらを選びますか
・確実に900ドル失う。
・90%の確率で1000ドル失う。

たいていの人は、問1では確実にもらえる方を、問2では損をしない可能性が少しでもある方を選ぶ。(期待値の考え方なら、どちらの選択肢も同じである。問1なら+900ドル、問2なら-900ドル)

これは問題の内容をいろいろ変えても同じ結果になり、得をするときは確実な方を、損をするときは少しでも損する額が小さくなる方を選ぶ。


これは株式の売買にも通じ、

あなたは資産をすべて株で運用しています。突然1万ドルが必要になりました。現在儲かっている株を売りますか(利益確定)、それとも損している株を売りますか(損切り)?

多くの人が利益確定に走る。

人間の心理的に、損を確定させることは「自分の失敗を認めることになるので苦痛」に対し、利益確定は「自分の勘が正しかった確かめる作業なので精神的に楽」ということである。


p147
100万ドル貰えるかもしれない確率について、5%ずつ上昇するときの気分の変化
A) 0%から5%に上がる
B) 5%から10%に上がる
C) 60%から65%に上がる
D) 95%から100%に上がる

このうち最も嬉しいのはAであり、次に嬉しいのはDである。

Aは簡単に言うと宝くじ。当たる確率は低いけど、買わなければ絶対に当たらない。買えば買うほど当籤確率は上がる

Dの例は遺産相続。普通に考えたら遺産を全額相続できる立場にいるが、万が一、自分の知らない親族がいて、遺産の相続権を要求してきたら困る。そんな時、あなたの遺産相続権を満額の90%で買い取りますよ!と言ってくる弁護士が居たら、弁護士に権利を売る可能性が高い。


というようなことが満載で書かれている本書は、とにかく面白かった。


9点/10点満点

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2017/03/03

ダニエル・カーネマン/村井章子訳「ファストアンドスロー(上) あなたの意思はどのように決まるか?」感想。
行動経済学。2017年02月15日読了。

本書の著者ダニエル・カーネマン氏は、心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞した(2002年)。氏の受賞により行動経済学という学問は一躍脚光を浴びるようになった。

本書はノーベル経済学賞を受賞した氏の研究「プロスペクト理論」を、なぜそのような研究をすることになったのか前後の研究を含め、一般読者にわかりやすく説明している本である。とはいえ、かなり難しい(例えば確率の計算で、計算式が省かれ答えだけが載っているのだが、その答えに至る式が全く見えてこない→巻末の注記に計算式が載っているのだが、それを見ても理解できない。など)。なお、「プロスペクト理論」の説明は下巻である。


以下、個人的メモ。(要約しようにも盛り込まれている内容が多すぎて…)

人間は、理路整然とした行動をとっているようでも、実はそうではない。


というのを様々な実験を経て立証したのが本書。


著者は本書で一貫して人間の脳の働きを二つのシステムとして表現している。(p41)

◆システム1:自動的に高速で働く。努力は全く不要か、必要であってもわずかである。また、自分の方からコントロールしている感覚は一切ない。

◆システム2:複雑な計算など頭を使わなければできない(=システム1ではできない)困難な知的活動を行う。基本的に怠け者で、システム1が導き出した判断に影響される。

音が聞こえた方角を感知する、2+2を計算する、簡単な文章を読む、空いた道を運転する、などはシステム1の仕事。

意外な音を聞いたときそれが何の音なのか記憶をたどる、17*24を計算する、複雑な論旨の妥当性を確認する、狭いスペースに注射する、などはシステム2の仕事。システム2を稼働させるには努力が必要である。努力すると脳が疲れる。


「SO□P」という単語の□に入る言葉を当てなさい。食べ物が目の前にある時や「食べる」という言葉を聞いた後ならSOUP(スープ)という単語を思い付く。風呂に入っている時や「洗う」という言葉を聞いた後ならSOAP(石鹸)を言う言葉を思い付く。

「食べる」はSOUPの、「洗う」はSOAPのプライム(選考刺激)といい、これらの現象をプライミング効果という。

プライミング効果を使えば、人々の思考を誘導できる。一例として、2000年にアリゾナ州で学校補助金の増額に関する投票では、学校が投票所だった場合、他の投票所より賛成票が多かった。学校補助金の増額という題に対し、学校という投票所がプライムになった。


「ニューヨークはアメリカの大都市である」「月は地球の周りをまわっている」「ニワトリの足は4本である」
最初の2つはすぐに正しいと理解できる。これはシステム1の働き。最後の文章はちょっとだけ悩む。システム1はたぶん正しいと思われるが念のため確認が必要であるとしてシステム2を呼び出す。システム2はほんのちょっと悩んだ後、正しいと判断を下す。これが「ニワトリの足は3本である」ならば、システム1が即座に間違いと判断を下せるが、4本の場合はシステム1は即座に判断を下せない。

見覚え、聞き覚えといった感覚は、単純だが強力な「過去性」を帯びていて、人間の脳は慣れ親しんだものが好きとのこと。

おしゃれなレストランで、隣の席の人がスープを飲んで不味そうな顔をした。こういう事態に遭遇したら「えっ?」と驚くが、別の席の客も不味そうな顔をしたら、2度目はそれほど驚かない。既に見覚えのある光景だから。


システム1は騙されやすく、信じたがるバイアスを備えている。疑ってかかり、信じないと判断するのはシステム2の仕事だが、システム2はときに忙しく、大体は怠けている。システム2は自分の信念に一致しそうなデータばかりを探す。

大統領の政治手腕が好きな人は、大統領の養子も声も好きである可能性が高い。これをハロー効果(後光効果)という。

パーティで気さくで感じの良い女性と知り合った。後日、募金を集める際、なぜかこの女性のことを思い出した。気さくで感じの良い女性ということしか知らないのに、なぜかこの女性のことを思い出した。これもハロー効果。

アラン:頭がいい、勤勉、直情的、批判的、頑固、嫉妬深い
ベン:嫉妬深い、頑固、批判的、直情的、勤勉、頭がいい

どちらの人物に好感が持てるか。十中八九、アランに好感を持つ。挙げられている性格は全く同じなのに、語順が違うだけでこうも印象が変わる。

ということを突き詰めていくと、「自分の見たものがすべてだ」(p155)ということになる。


更に突き詰めていくと、これらは数字にすることができる。アンカリング率という。簡単な実験として、10人でやっているプロジェクトがあるとして、ミーティングで10人に自分のプロジェクトへの貢献度を%で書かかせ、一斉に提示させる。まず間違いなく貢献度は100%を上回る。


本書ではヒューリスティックという言葉が(最初から)出てくる。「近道の解決法」という意味になる概念だそうだ。

寡黙で、整理整頓が大好きで、ルーチンワークを苦にしない。

この人の職業は図書館司書でしょうか、それとも農家でしょうか。先入観で図書館司書と答えてしまいそうだが、実際は農家の方が就業人口が多いので、農家である可能性の方が高い。しかし先入観が働く。こういうのをヒューリスティックという。


軍の飛行機の訓練教官は、「素晴らしい飛行をしたので褒めると、次は必ずダメになる」「なので褒めない。失敗したときにめちゃくちゃ怒鳴る」という。

褒めると下手になり、𠮟るとうまくなるというのは間違いである。共感が観察したのは「平均への回帰」という現象である。

褒められるほ上手くできたのは、たまたまその時が良かっただけで、普段はもっと下手。だから次は下手になる。(下手なのが平均)

叱られるほど下手だったのは、たまたまその時が失敗しただけで、普段はもっと上手。だから次は上手になる。(上手なのが平均)


ということで非常に面白かった。下巻の感想は明日。


9点/10点満点

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2017/02/21

吉田友和「ハノイ発夜行バス、南下してホーチミン ベトナム1800キロ縦断旅」感想。
紀行文。2017年02月05日読了。

私の中では元祖デジタル旅行作家の吉田友和氏のベトナム旅。

私が読んできた旅行作家は、
宮脇俊三(1926生・鉄道マニア)、
藤原新也(1944生)、
椎名誠(1944生・小説家)、
沢木耕太郎(1947生)、
関野吉春(1949生・冒険家)、
鈴木正行(1949生・全世界放浪)、
下川裕治(1954生・貧乏旅行追求)、
蔵前仁一(1956生)、
堀田あきお(1956生・マンガ家)&かよ夫妻
おがわかずよし(1959生)、
田中真知(1960生)、
船尾修(1960生)、
素樹文生(生年不明)、
宮田珠己(1964生)、
高野秀行(1966生・ルポ)、
鈴木傾城(生年不明)、
小林紀晴(1968生)、
石田ゆうすけ(1969生・自転車で世界一周)、
たかのてるこ(1971生)、
◆吉田友和(1976生)、
角幡唯介(1976生・冒険ルポ)、
石井光太(1977生・ルポ、ドキュメンタリー)、

など、多くの作家さんの紀行文を読んできた。

私が読んだ作家さんの多くは既に45歳以上である。ここに挙げた作家さんの処女作は、おおむね15年より前に発行されている。分類すると以下のような感じ。

・自分の趣味をとことん追求する(宮脇俊三・石田ゆうすけ)
・バックパック旅の体験談、失敗談を面白おかしく書く(蔵前仁一・おがわかずよし・宮田珠己・たかのてるこ)
・出版ニーズに合わせ、テーマを突き詰める(下川裕治)
・旅に人生を見出す(藤原新也・沢木耕太郎・素樹文生・小林紀晴)
・探検記(関野吉春・高野秀行・角幡唯介)
・アンダーグラウンド(鈴木傾城・石井光太)
・地誌学的(田中真知・船尾修)


私が読んできた作家さんの中で、いち早くデジタルデバイス(パソコンやスマホ)を有効活用した旅をして、それを著作に反映させたのが本書の著者、吉田友和氏。他にもそういう作家さんはいると思うけど、私は知らず。

吉田さんのデジタル旅は私にかなりの影響を与えた。

本書はそんな吉田さんのベトナム旅。でもデジタルデバイスはそれほど活用するわけではなく、ベトナムの現地旅行代理店で非観光スポットを手配ツアーで組んで、自分好みの旅に行ってきた紀行エッセイ。

本書ではホーチミンの高級ホテル、マジェスティックに一泊するところが書かれている。私がベトナムに弾丸旅行(週末2泊4日)に行ったときを思い出した。私が行ったときは、マジェスティックホテルの前の道路は渡れた。トラックがバンバン通ったけど、渡れないほどじゃなかった。今は違うのかな。それとマジェスティックに行ったのなら、最上階のバーにも訪れてほしかった。

吉田さん、ちょっと方向性に迷いが出てきているのかなあ。と思う部分もあるけれど、肩の凝らない読み物としては良。吉田さんの良い意味での緩さは、思いもかけない方向から評価されているみたいで(すみません)、本書はテレビ東京でドラマ化される。
ハノイ発夜行バス、南下してホーチミン~ベトナム1800キロ縦断旅
2017年2月26日(日) 16時00分~17時15分

私が紀行文をよく読んでいたのは2005‐2009年頃なので、私のアンテナが感知しなくなっただけなのかもしれないが、最近若い旅行作家さんがあまり世に出てこないように思う。

TBSのクレイジージャーニーに出ているヨシダナギ(1986生)、佐藤健寿(生年不明)、丸山ゴンザレス(1977生)などがいるが、20代で若さ爆発な人はもう出てこないのかも。出版不況だし、紀行文は旬が大切なところもあるし(2017年2月の今なら台湾が売れる!とか)、無料公開されているブログに面白い紀行文は山ほどあるし、世界中が均質化してきて文章で楽しさや面白さが伝わるところは減ってきているし(アフリカはまだ面白いと思うがニーズが少ない)。

いかん、愚痴になってしまった。


6点/10点満点

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2017/02/16

ピーター・ナヴァロ/赤根洋子訳「米中もし戦わば」感想。
戦力分析。2017年02月02日読了。

著者のピーター・ナヴァロ氏はカリフォルニア大学アーバイン校の教授で、ドナルド・トランプの大統領選選挙アドバイザーになり、現在はトランプ大統領が新設した国家通商会議の初代委員長。

本書は帯に「大統領補佐官自らが執筆! 防衛省現役組が今読んでいる本」と大々的に煽っている。

実際、巻末の解説は防衛省の主任研究官が書いている。

この手の世界各国の戦力分析に関する書籍は、小川和久・坂本衛「日本の戦争力」2006年02月03日読了。10点満点

を筆頭に、昔から何冊か読んでいる。現代の戦争は空を制して(制空権を握る)、そのあと海を制する(制海権を握る)。それが出来ればほぼ勝つ。

というのだったが、本書は違う。

数は力。それが本書。

本書に書かれている内容は、アメリカ人がこんなに日本と韓国と北朝鮮と台湾のことを知っているのか! と驚きを隠せないほど詳しい。生半可に新聞記事(というかネットに載っているニュース)ばかり読んで知った気になっている私なぞは、著者の知見の深さに驚いてしまった。(とはいえ、年に数万ドル~数十万ドルの賃金をもらっているなら、このくらいの分析をするのは当たり前なのだろうが)

本書を読んでとにかく驚いたのは、アメリカも日本も採用しているイージスシステム(平たく言えば、自国の空母や自国の国土を狙って発射されるミサイルを、イージス艦が次から次へと撃ち落とすシステム)は、イージス艦が搭載しているミサイル数を上回るミサイルを直接イージス艦に向けて撃てば、イージス艦は自分の防衛で手いっぱいになり、自艦に積載しているミサイルが尽きたら一巻の終わり。

つまり、数の多さが勝負のカギ。

これは…「防衛省現役組が今読んでいる本」という帯文句も分かる。

中国が、サルでも作れる格安兵器を大量に戦場にぶち込んだら、アメリカ軍は負ける。

ということが書かれている本である。

恐ろしい。


9点/10点満点

2017/02/17追記
佐藤優氏による本書のレビューが、現代Webに載っていましたのでリンクします。

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2017/02/08

ヨリス・ライエンダイク/田口俊樹・高山真由美訳「こうして世界は誤解する」感想。
ジャーナリズム論。2017年01月28日読了。

中東に駐在していたオランダ人ジャーナリストの著者(エジプトのカイロ大学に留学しアラビア語ができる)が、ジャーナリズムは果たして本当のことを伝えているのだろうか?

という疑問を正直に読者に投げかけた本。

原著は2006年に出版され、日本語版は2011年に出版された。

ジャーナリズムを知らないド素人だった著者は、アラビア語ができるという一点でオランダの新聞社に雇われ、中東特派員として赴任した。ついでにラジオの仕事も受ける。ラジオに音声出演するときは、オランダの放送局があらかじめ原稿をまとめているので、著者は原稿に沿って喋るだけ。特派員の存在価値は、その場所にいて、その場所から喋ること。

中東のニュースの最新情報は、現地のジャーナリストを雇って調べている通信社(日本だと共同通信が有名)が逐一情報をくれるので、特派員が直接調べなくてもいい。でも、どこかの国が戦争になり、軍司令官や防衛大臣が記者会見する際は、記者会見の場にいて、そこからリポートすること。

西側メディアはアラブ諸国が悪いというバイアスで報道する。
アラブ諸国はイスラエルが悪いというバイアスで報道する。

では、アラブ人同士の戦争は誰がどう報道する? モロッコ対アルジェリア、エジプト対シリア、スーダン対サウジアラビア、イラク対クウェート(これはクウェートが西側陣営)、シリア対ヨルダン、ヨルダン対パレスチナ、そして国内がバラバラで敵ばかりいるレバノン。

経験を積んだ著者は違う新聞社に移り、テレビの仕事もするようになった。パレスチナに行き、子供をイスラエル軍に殺された母親の取材をする。この母親はパレスチナのフィクサーを通して紹介された。フィクサーは世界中のテレビ局に「悲惨な境遇にある人物」のリストを持って売り込みに来る。西側のテレビ局は手っ取り早くインタビューを済ませたいから(パレスチナに入国するにはイスラエルの厳重な警備を通るので面倒)、フィクサーのリストを活用する。リストに掲載されている人物が喋ることは嘘ではない。ただ、フィクサーは同じリストを世界中のテレビ局に売っているので、世界中のテレビ局が同じ人物に何度も異なるインタビューをすることになる。

フセイン時代のイラクでは、独裁国家の恐ろしさを身に染みて理解した。

著者はエルサレムのパレスチナ人居住区である東エルサレムに引越しした。

イスラエルは広報が上手い。
パレスチナは広報が下手だ。

パレスチナはもうちょっと世界に通用する広報をすれば、世界中から支援がもっともっと集まるのでは?

しかし現実のパレスチナは、PLO(後のファタハ)=アラファトが独裁者として君臨しているだけだった。広報はアラファトの腹心。能力なんて関係ない。アラファトは、自分がリッチな状態を維持できればそれでいい。イスラエルと和平を結んで自分の名声が上がり、援助金がじゃぶじゃぶ入ってくるのは最高に望ましい。

(注:ファタハに愛想をつかしたガザ地区(海側)のパレスチナ住民は、ハマスというイスラエルを敵視する政党に乗り換えた。ハマスはガザ地区からファタハを追い出した。しかしファタハは依然ヨルダン川西岸(内陸部)を押さえている。パレスチナは事実上、2か国に分裂している。と言ってもアメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア、日本や韓国、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、スイス、スペイン、ポルトガルなどが国として承認していないので、国ではないのだが)


「事実と見解をはっきり区別する」


現代ジャーナリズム、特にテレビの世界ではこれが守られていない。


とても面白い本だった。


8点/10点満点

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2017/02/04

デクラン・ヒル/山田敏弘訳「黒いワールドカップ」感想。
サッカー八百長ルポ。2017年01月22日読了。

プロサッカーでは八百長がまかり通っている。

中でも一番厄介なのは、試合前から勝敗がほぼ見えている実力差のある試合で、負けが濃厚なチームを買収して本命チームを確実に勝たせること。これはどこからどう見ても八百長に見えない。

八百長を仕掛けた連中は、単純な試合の勝敗ではなく「何点差で勝つか」に賭ける。従って負けが濃厚なチームに「2点差で負けろ」というような買収を行う。

ということを、シンガポール、マレーシアのプロサッカーリーグで実際に八百長を仕掛けていた組織とコンタクトを取り、さらにヨーロッパで八百長を仕掛けている組織にもコンタクトを取り取材したのが本書。

フランスの1部リーグに所属するオリンピック・マルセイユ(現在酒井宏樹が在籍している)は、1993年に八百長が発覚した。

2006年にはイタリアのセリエAで大規模な八百長が発覚し、ユベントスが2部に降格した。

本書の原著は2008年に、日本語版は2010年に出版された。

著者はイギリスのオックスフォード大学院に通いながら本書の取材を開始し、卒業後ジャーナリストになった人。

八百長はワールドカップにもおよび、グループリーグ2試合目で勝ち抜けもしくは負けが決まっているチームは、八百長の手が伸びやすいとのこと。

既に明らかになっている事件の詳細な解説と、著者が独自に八百長フィクサーと面会し取材した内容が混在している。

興味深い内容なのだが、ちょっと読みづらい。

イギリス人の著者は、八百長の結末について比喩や暗喩を多く用いている。ルポなんだからそこはズバッと明確に書いて欲しいのに暗喩を使っているので、もやもやする。


6点/10点満点


2017/04/13追記
本書の訳者は山田敏弘氏。
インド・ムンバイで起きたテロを取材した「モンスター 暗躍する次のアルカイダ」2012年04月24日読了。10点満点の著者と同一人物であるとつい先ほど知った。なるほど、翻訳もされているんですね。

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2017/02/01

ドン・ウィンズロウ/峯村利哉訳「ザ・カルテル(下)」感想。
メキシコ麻薬戦争小説。2017年01月14日読了。

小説を読んだのは、麻野涼「死の臓器」2015年08月04日読了。2点。以来である。

下巻(約580ページ)は3日で読んでしまった。

先が知りたくて止まらない。そういう小説だった。

メキシコ麻薬戦争の(たぶんかなりリアルな)今を反映しているので、殺し方は残忍だし、まさかこいつが?!と思う連中が買収されているし、こいつらが手を組むのか!という展開もある。

セータ隊という国軍のエリートが作った麻薬組織が出てくるが、これはロス・セタスという実在の麻薬カルテルをモデルにしている。(ロス・セタスでググると超絶グロ画像がいっぱい出てくる→麻薬カルテルは敵対組織に恐怖を植え付けるため、惨殺した被害者を写真にとってネットにアップしている)

リアリティがありすぎて恐ろしいのだが、先を読まずにはいられない。たぶん全世界中の読者がそう思いながら読んだだろう。

ラストは好き嫌い分かれると思うが、私は嫌い。つまらない。

でもこの小説は、ラストは重要じゃない。本書では前作「犬の力」の後、2004年から2012年までの麻薬戦争を書いている。なぜメキシコはここまでひどくなってしまったのか、その過程を書き切っていることが本書の肝だと思う。

ちなみに、前著「犬の力」と本書「ザ・カルテル」を合わせて、リドリー・スコット+ディカプリオで映画化されるそうである。

9点/10点満点

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2017/01/31

ドン・ウィンズロウ/峯村利哉訳「ザ・カルテル(上)」感想。
メキシコ麻薬戦争小説。2017年01月11日読了。

本屋に行ったら、本書が平積みされていた。

ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳「犬の力・上」2014年04月13日読了。8点
ドン・ウィンズロウ/東江一紀訳「犬の力・下」2014年04月14日読了。7点

の続編である。メキシコ麻薬戦争の当事者(取り締まる側と、取り締まられる側)を扱った、超一級の小説であった「犬の力」。個人的にはラストが気に入らなかったのでちょっと辛めの採点をしたが、

2014年に書いたブログより
>物語は、1997年、メキシコのある集落で、一族19人が麻薬マフィアに惨殺されたシーンから始まる。一族にマフィアの裏切り者がいた。裏切り者は、バナナのように顔の皮を剥がされて殺されていた。アート・ケラーは、自分の落ち度でこの事態を招いたと悲しむ。

この真相はそうとう後にならないと出てこないが、小説の仕掛け(開けっ広げな伏線)としては有効だった。

その続編である。これは読まなくてはならない。

とはいうものの、文庫本なのに1冊1200円+税。めちゃくちゃ値段が高い。ちなみに上巻は632ページ。ページ数を考えるとやむを得ない価格なのかな。

それと、訳者としての力量が素晴らしかった「犬の力」の訳者、東江(あがりえ)一紀氏が他界してしまったので、誰が翻訳するのかによって読後感が大きく異なるだろうという不安もちょっとあった。(引き受けた翻訳家=峯村利哉氏だって、東江氏と比べられる重責を覚悟のうえで引き受けられたのだろう)

「犬の力」は1975年から1999年までの戦いを書き、ラスト数ページに、2004年の主人公の心境が書かれている。

さて本書。

知っている人は知っていると思うが、メキシコ麻薬戦争はここからが本番である。19人の死に主人公アート・ケラーが心を痛めたいたのが前著「犬の力」。

しかしメキシコ麻薬戦争(全く知らない人はwikipediaを読んでね)では、1年で1万人以上が殺されている。麻薬組織同士の抗争VS警察(ほとんど買収されている)VSメキシコ軍(やっぱり買収されている)VSメキシコ政府直轄の麻薬撲滅チーム(親族が麻薬組織に殺されているので絶対に買収されない)という泥沼。

各勢力は、始めはただ敵対勢力を殺していたが、だんだんとエスカレートし、生きたままガソリンをかけて焼き殺す、生きたままチェーンソーで両手両足首を切って殺す、生きたまま額の髪の生え際を切って顔面の皮をはいで殺す。イスラム国も真っ青な方法で殺しまくった(というか、イスラム国の残虐さはメキシコ麻薬戦争を参考にしたと思われる)

まあ、そういうグロい部分も多いが、読み始めたら止まらなくなった。5日で読んでしまった。

「犬の力」をちょっと辛めの採点にしたのは、私が「犬の力」を読んだ2014年の時点で、メキシコ麻薬戦争は小説(「犬の力」)よりも酷くね? と違和感を抱いたからだと思いだした。


8点/10点満点

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2017/01/30

小川忠「インドネシア イスラーム大国の変貌」感想。
ルポ。2017年01月06日読了。

2016年9月に出版された本。著者は2011年9月から2016年3月まで世界交流基金ジャカルタ日本文化センター所長。それ以前にも1989年から93年まで4年間、世界交流基金の職員としてインドネシアに赴任。

その著者が2016年までの最新のインドネシア情報をコンパクトにまとめたのが本書。

非常に良い。

p16
ナショナリズムは民族ナショナリズム、宗教ナショナリズム、領域ナショナリズムに大別でき、インドネシアは領域ナショナリズムを基盤とする。

→インドネシアにはキリスト教徒や仏教徒もいるので宗教で国をまとめているのではない。また民族もいろんな人種が混ざっている(マレー系、ジャワ系、中国系、インド系、ミクロネシア系等々)ので民族ナショナリズムでもない。このエリアに住んでいる人は皆インドネシア人として一致団結しよう、という領域ナショナリズムである。


p19
インドネシアの憲法で宗教に関する記述は、「唯一神への信仰」とあるのみ。

→つまりユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教、上座部仏教などを信仰している事。逆にいえば、無宗教はダメ。

p40
1948年から62年まで西部ジャワで、1949年から65年まで南スラウェシで、53年から62年までアチェで「イスラーム国家」の樹立を求める反乱が続発した。

→インドネシア独立直後、多数派のイスラム教を国教としなかったことに不満を持つ国民があちこちで暴動を起こしていたとのこと。前述の宗教ナショナリズムを採用しなかったということ。もし独立時、イスラム教で国をまとめようとしていたら、現在のパキスタンのような状況になっていたのだろうと推測。(インドネシアは国をまとめるのに宗教を使わなかったので、西側先進国も支援しやすかった)

p76
ユドヨノ政権が誕生してから教育に力を入れた。就学率が如実に上昇している。
初等教育 2004年90%→2014年92%
中等教育 2004年55%→2014年83% (注:日本でいう中学と高校)
高等教育 2004年17%→2014年32% (注:日本でいう専門学校、短大、高専、大学)

→本書とは別に仕事案件でインドネシアを調べていたら、インドネシアの15歳から24歳は人口の17%、約4400万人いる。大ざっぱな計算ではあるが、その32%が高校より上の学校に行っているのでその数1400万人。単純な人数でいったら、日本の大学在学者数より多いのかも。

ちなみにインドネシアの出生率は数年前2.6→2015年データでは2.13まで下がってきているので、各家庭が子供の教育にかけるお金はこれまで以上に増える。

p160
フランス「シャルリ・エブド」のムハンマド(モハメッド)風刺画の端を発したテロは、テロという卑劣な行為で言論の自由を脅かしたということで、インドネシアの穏健派ムスリムの間でも同情論があったが、「シャルリ・エブド」の風刺画が公開されたら、一気にトーンダウン。

→こんな奴らをかばうんじゃなかった的な話です。言論の自由はある。けど侮辱は侮辱である。侮辱を暴力で解決していいのか?という話になりがちだけど、侮辱は言葉(絵)の暴力です。まあここいらは、たぶん100年かかってもお互い分かり合えないところだけれども。

p177
世界で日本語を学んでいる人の数(2012年)は398万人。そのうち87万人がインドネシア。うち84万人は中学、高校で学んでいる。これはインドネシアの高校カリキュラムで、高校で第2外国語(第1はもちろん英語)を必修としたから。ただし2013年から第2外国語の必修が外れたので、これから下がるとの予測。

p188
1977年に福田赳夫首相がマニラで東南アジア外交の理念について演説した「福田ドクトリン」は評価が高い。

→ぜんぜん知りませんでした。

p193
日本がインドネシア独立を支援したので、インドネシアは建国以来の親日家である、という人世代前のインドネシア人がきいたら笑ってしまうような歴史観が日本に存在している。

→第二次世界大戦時、日本は石油目当てでインドネシア征服した。1980年代はその記憶が残っている人が大勢いた。

敗戦後、朝鮮戦争特需で日本の商業界は活気づき、傲慢な猛烈サラリーマンが傲岸不遜な態度で商売をしていた。

それらの記憶が残っている1980年代までは、インドネシアはそれほど親日ではなかったとのこと。


面白かった!


9点/10点満点

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2017/01/29

ジリアン・テット/平尾光司監修/土方奈美訳「愚者の黄金」感想。
ルポ。2017年01月02日読了。

2017年最初の一冊(読み始めたのは年末からだけど)は、日本ではリーマンショック(2008年)と呼ばれている、アメリカのサブプライム住宅ローンの崩壊(2007年)に端を発した世界金融危機についての、ものすごく丹念に取材したルポ。

本書は、1994年6月にJ・P・モルガンの世界中の若い社員がフロリダに集まったところから始まる。彼らはスワップ部門に属していた。デリバティブの一部門である若い彼らには、これからの金融界を担う新しい商品の開発を任された。

そこで生まれたのがクレジット・デフォルト・スワップCDS。すさまじく単純化していうと、

銀行が融資を行うのに際し、貸し倒れリスクが高い場合、普通は利息を高くして貸し出す。しかし相手が長年取引している名門企業で、高い利息に不満を言ってきた場合、銀行は悩む。

そこでCDS。これは名門企業が倒産するリスクを数値化し、倒産しない限りずっと配当がもらえます、でも倒産したらパーになる。という証券。J・P・モルガンがCDSを作ったばかりの頃は、CDSは一般に流通させるものではなく、保険会社や資金がある大手企業に直接売り込んで(相対あいたい取引)、引き受けてもらっていた。

名門企業が銀行への借金を完済させたらCDSはそこで終わり。元本は引き受け先の会社に戻ってくる。

通常銀行は自己資本規制(貸出残高の8%(国によって違う?)はキャッシュを持っていなければならない)により、常に数百億円から数兆円のキャッシュを持っていた。これを貸し出せないのはもったいない。そこで銀行が倒産することをCDSにして売ったらどうなる? ということをFRS(連邦準備制度)とのバトルを経て、FRSが折れて、自己資本規制を下回ってもCDSで保障されてりゃ余ったキャッシュを貸しても良い。

ということになり、全世界中の銀行が狂喜乱舞。

でもCDSを作り出したJ・P・モルガンは中途採用をほとんど行わない保守的な銀行だったため、世界の動きがイマイチわからなかった。(J・P・モルガンはチェース・マンハッタンに買収されJPモルガン・チェースになった。その経緯なども詳しく書かれている)

世界中のメガバンクが独自のCDSを大量に作り、証券化し、一般人手を出せるようになり、挙句の果てにはJ・P・モルガンが「これはやったらアカン」と判断していたプライム住宅ローン(※)でもCDSが設定され、

※プライム住宅ローン:サラリーマンのように定期収入がある人向けの住宅ローン。
 サブプライム住宅ローン:住宅ローンの審査に落ちた人向けに、高利息で貸し出す住宅ローン。通常は変動金利を用いていて、ローン借り入れ後5年くらいは低金利、6年目から金利が倍増となる。

これはまずいんじゃないの?とJ・P・モルガンのチームが懸念していたら、サブプライム住宅ローン危機が発生し、世界金融危機につながった。

というお話。

ルポなので実在する多くの銀行員に取材し(J・P・モルガンが多いけど、いろんな銀行員の話が載っている)、金融工学と呼ばれる難しい学問を何とか平易な言葉で表している。

これは素晴らしい名著だ。ルポとしての真実味、金融工学を平易な言葉で伝える力(日本語翻訳も非常に良い)、そしてルポでありながら登場人物に魅力を与える著者の文章力。

この本を一冊読むだけで、大学の経済学学部の単位がもらえそうなくらいの圧倒的な内容である。

素晴らしい。

べた褒めなのに10点満点じゃないのはなぜ?

それはやっぱり難しいから。平易な言葉で書かれていても、金融工学が難しいのは変わらない。この本を読んでいる途中で何度wikipediaを開いたことか。

そして今、知ったような気になってこの感想文を書いているけど、読んでから既に1か月経っていて、この感想文に書いたことが間違っていないかビクビクである。(「理解した」と「たぶん理解した」にはすごい隔たりがあるんだよね)


9点/10点満点

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2017/01/28

エルヴェ・ファルチャーニ/アンジェロ・ミンクッツィ/芝田高太郎訳/橘玲解説「世界の権力者が寵愛した銀行 タックスヘイブンの秘密を暴露した行員の告白」感想。
回顧録。2016年12月23日読了。

著者はフランス・イタリアの二重国籍を持ちITエンジニアで、スイスのHSBC(銀行)のプライベート・バンキング部門の情報システムで働いており、そのときに知ったHSBCのプライベート・バンカー(超富裕層のみを対象とする銀行員)の脱税幇助を告発した人。脱税者にはフランス人、スペイン人が多く、日本人もいた。

原著は2015年に出版された。

単純にスイス警察に告発しても埒が明かない(スイスの法律は銀行の顧客データを守る)ことを知っていた著者は、仲間とともに脱税者(脱税していない顧客も含まれる)のデータをクラウドにアップし、フランスのマントン(イタリアとの国境に近く、モナコの隣)の著者の両親の家でクラウドデータにアクセス。

このデータにアクセスすることはスイスの法律に違反しているので、スイスの警察がフランスの憲兵と一緒にマントンにやってきて事情聴取しようとするが、フランスの憲兵がそれを阻止。(注:スイスはEU非加盟)

最終的にはスペインで捕まる。

なぜこんなまわりくどいことをしたかというと、フランスやスペインの警察が間に入ることで、フランスやスペインの警察が証拠であるクラウドデータにアクセスし、一人の犯罪者(著者)から公式に得た証拠から、芋づる式に脱税の証拠を手に入れさせるためである。違法に入手したデータは証拠にならない。


というようなことを著者視点で書かれているのだが、すさまじく読みづらい。

時系列は行ったり来たりだし、法的な側面の説明も少ないし、仲間の存在などの前後関係も説明不足。

橘玲氏の解説がなかったら投げ出したくなるほど読みづらかった。


それでも投げ出さなかったのは、プライベート・バンカーの「金持ちから得られる手数料収入(=自分の給料)が何物にも勝る」的な価値観が面白かったから。

でもこの本は他人には勧められないなあ。


6点/10点満点

2016年に読んだ本の感想がようやく終わりました。次回更新から2017年分になります。

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2017/01/27

NHK「東海村臨界事故」取材班「朽ちていった命 被曝治療83日間の記録」感想。
ルポ。2016年12月21日読了。

1999年9月30日、茨城県東海村にある核燃料加工施設「JCO」で臨界事故が発生した。臨界事故とは、ある程度まとまった量の放射性物質(何もしなくても核分裂して中性子を放出)が、制御できないままに連鎖反応を起こすことである。

(もう少し説明すると、放射性物質が核分裂し放出された中性子が別の放射性物質にぶつかり、ぶつかった別の放射性物質はぶつかったことをきっかけに核分裂し新たな中性子を放出する。これは普通の現象である。連鎖反応とはこれが連続的に起こる現象。原子力発電はこの現象を人為的にコントロールしている。臨界事故とは、連鎖反応を人為的にコントロールできなくなった状態をいう)

臨界事故を防ぐために、核燃料加工工場では正規マニュアルに従って作業する。しかしJCOは作業を簡略化するため裏マニュアルを用い、更に事故当日は裏マニュアルすら無視したやり方で作業していた。加工作業を行っていた3人が1-20シーベルト被曝し、病院に緊急搬送された。(ミリシーベルトやマイクロシーベルトではない。マイクロシーベルトの100万倍以上の被曝である)

3人は国立水戸病院に運ばれたのち、千葉市にある放医研(放射線医学研究所)に転送された。

本書は、3人の中で最も被曝量が大きかったA氏の治療記録である(本書では本名が書かれているが、ネットにある公式記録などでは本名が載っていないので、当ブログも本名は載せない)。

入院2日目、A氏に目立った変化はなく、まだ普通に喋ることができた。

3日目、放医研から東大病院に転院。右手が腫れていてA氏も痛いと言うが、まだ普通に喋っていた。

5日目、看護婦がA氏の結婚のなれそめを聞くなど、まだ会話ができた。

7日目、A氏の骨髄細胞の染色体を写した顕微鏡写真が届いた。染色体が完全に壊れていた。すなわち、今後新しい細胞が作られることが無いということである。妹から採取した末梢血幹細胞の移植を行った。

11日目、A氏はまだ喋ることができた。しかし、胸に貼った医療用テープをはがすと、その部分の皮膚が丸ごとくっついてきた。以降、医療用テープは使えなくなった。呼吸の状態が悪くなってきたため、酸素マスクを使うことになった。顔に密着させるので、付けている間は苦しい。A氏は「もう嫌だ」「やめてくれ」「帰りたい」「俺はモルモットじゃない」との言葉を漏らす。

国内で未承認の薬が何種類も投与されていた。

18日目、まだA氏の意識はある。「痛いですか」の問いに、首を縦や横に振っていた。末梢血幹細胞の移植の効果が現れ、白血球が増えた。

20日目、A氏はローリングベッドという、床ずれを防ぐベッドに移され、全身が火傷のような症状を示してきたため、皮膚を圧迫しないようなパッドで周りを固められた。鎮静剤で寝たきりの状態が長く続くようになった。

26日目、根付いたはずの妹の末梢血幹細胞だったが、染色体が壊れているのが確認された。

この頃には、全身の皮膚から染み出した体液が1日1リットルを超えていた。


このような描写が続き、59日目に心停止するも、心臓マッサージで心臓は再び動き出す。だが意識はもうない。
A氏は83日目に亡くなった。

読んでいる途中から、治療と人体実験の境目は一体どこなのか考えさせられた。


7点/10点満点

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2017/01/26

ランド・ポール/浅川芳裕訳「国家を喰らう官僚たち アメリカを乗っ取る新支配階級」感想。
米国論。2016年12月15日読了。

著者のランド・ポールは、アメリカの現職上院議員(共和党)。2016年の大統領候補として共和党の予備選挙に出馬するも、トランプに敗退した。

本書は、アメリカのバカげた官僚組織について、豊富な実例をもとに徹底糾弾している本である。

アメリカは銃社会である。公務員が公務で銃を使えるかどうかに関しては、アメリカ人を含めて世界中の大多数の人が警察や軍隊だけだと思っている。しかし、農務省、魚類野生動物局、環境保護庁などの官庁が完全武装したSWAT(特殊部隊)を持っていると聞いたら驚くに違いない。

農務省(USDA)は、農業製品について監督している。無殺菌牛乳を生産している酪農家が、無殺菌牛乳の危険性を知った上で購入している人に販売したところ、無殺菌牛乳の販売は許可されていないとして農務省SWATが酪農家を急襲し、無殺菌牛乳を押収した。

ギブソン社のギター工場が魚類野生生物局(FWS)の武装工作員に急襲され、ギターの原材料を差し押さえられた。最終的に判明した差し押さえ理由は、マダガスカルから違法な木材を輸入したから。しかし、なぜ魚類野生生物局が?

また魚類野生生物局は、ホンジュラスからロブスターを輸入したアメリカ商人を急襲した。ホンジュラスの法律に違反した未成熟なロブスターだからという。しかし、当のホンジュラス政府は「違法じゃないですよ」と公式回答した。にもかかわらず、魚類野生生物局はこの商人を犯罪者として廃業に追い込んだ。

環境保護庁(EPA)は、自宅の庭を整地した移民を急襲し逮捕した。理由は「水質清浄法」違反。移民の自宅の庭は法律で保護されるべき「湿地」であり、湿地は許可なく土壌改良してはならない。その土地がからっからに乾いていても、一番近くの川まで10㎞離れていても、環境保護庁が湿地と認定した土地は湿地であり、整地することすら許されないのだ。


というようなことがてんこ盛り。うろ覚えでこの感想文を書いているので、細かなところは齟齬があるやもしれず。ご了承賜りたく。


しかしアメリカ、ひどいね。というかバカだね。

ちなみに作家(兼出版社旅行人社長)の蔵前仁一さんも本書のレビューを書いています。


7点/10点満点

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«川島博之「電力危機をあおってはいけない」感想。
電力論。2016年12月11日読了。